
先頃、アルマーニ氏が「サステナブル・ファッション・アワード2022」のヴィジョナリー賞を受賞した。長年にわたって、環境保全や循環型経済の推進などに取り組んできたことが、高く評価されたのだ。もっとも氏自身は、社会貢献を「企業が当たり前に果たすべき役割」と捉え、とりたてて世の中に喧けん伝でんすることはしてこなかった。しかし今年4月、”SDGs時代”の流れの中、SDGsに特化してグループのポリシーや活動内容を伝えるウェブサイト「Armani/Values」を立ち上げたのだ。アルマーニが積極的姿勢を表明するだけで社会の”SDGs機運”が高まる。これはこれで非常に意義深いことだと感じる。
こうした背景には、アルマーニ氏の中には、ファッションに携わった当初から変わらぬ思いがある。それは身につける人に「大事に使って、長く愛用したい」と思ってもらえるものをつくること。リサイクルやリユースに回される以上に環境にやさしい、大切なサステナブルだ。たしかに「捨てられないものをつくる」こと、「ものを捨てない」ことは、SDGsの掲げる目標12 「つくる責任、つかう責任」を果たす究極の行動と言えよう。
実際、アルマーニの洋服をはじめとするファッションアイテムや家具は、大半が長く愛されるものとして定評がある。今シーズンのパンツと5年前のジャケットを合わせてもマッチするし、10年前のスーツを今着ても新鮮に映る。また親から子、孫へと、ある種の家宝のように受け継がれるケースも多い。つまりアルマーニのスタイルは、今この時の自分を表現するモードたりうるのだ。洋服は着る人を、家具は使う人をかっこよく、ステキに見せる。過度な装飾のないシンプルなデザイン(less)だから、着る人・使う人の魅力をより豊かに引き出す(more)ことができるのだ。
この「less is more」の精神を貫く氏の率いるアルマーニ社は、早くから社会貢献活動に取り組んでいる。その一つの例が、地球環境保全のための国際的ネットワーク、グリーンクロスインターナショナルと2011年から行っている「ACQUA for LIFE」プログラムだ。命の根幹に関わる「水」について考えることから生まれた本プログラムは、飲料水の安全な供給を得られていない人たちが全世界に7億人以上もいて、一番の犠牲者がかよわい子どもたちであることに着目。きれいな飲料水を、それを必要とする人々に安全に供給することを目的に、活動をスタートさせた。井戸・雨水貯留システム・取水ポンプなどのインフラ整備を行うそのサポートは、約10年を経た今、21カ国・44万人に水を届けるまでに広がっている。
また日本で東日本大震災が発生した時、氏はユネスコ協会連盟に私財を託して奨学金制度を創設。被災により進学や将来の夢をあきらめざるをえない状況に追い込まれた若者135人に3年間、毎月2万円を支給した。後日談だが、当時の奨学生を代表して3人が、2019年に来日したアルマーニ氏のもとを訪れ、感謝の気持ちを伝えたという。現在は社会福祉関係や俳優の仕事をする彼らに、氏は「一番大事なのは命。命こそ財産。こうして君たちと話せたことが、何よりうれしい」と伝えている。
ほかにもSDGs関連では、「人権問題」に力を注いでいる。例えば強制労働や児童労働を行う工場で生産された製品を使っていないかなど、サプライチェーンの全体の流れを厳しくチェックしている。また今般のコロナ禍にあって、医療従事者を守るためにどこよりも早く工場のラインを、医療用作業着の製造に転換したのも、その一つの表れだ。さらに動物の尊厳にも目を向け、業界に先駆けて、2016年春に天然毛皮を一切使用しない「ファー フリー」を宣言。毛皮を取るために育てた動物の毛皮も使わないことを表明している。
もちろん環境問題の最重要事項である温室効果ガス(GHG)の削減にも、数値目標を掲げて取り組む。2019年を基準年に、「自社が直接・間接的に排出するGHGの量を2030年までに50%削減する」「購入した商品とサービス、及び下流の輸送と流通からのGHG排出量を42%削減する」という具体的な目標が設定されている。「常に革新的なプロセスを実施し、廃棄物を可能な限り削減し、再生可能エネルギー源を使用することで、地球に有害な排出量を削減。地球との共生を図っていきたい」考えだ。
数々の取り組みを通して、「ジョルジオ アルマーニというラグジュアリーブランドのサステナビリティは高潔な思想を軸に具現化されている」と実感した。
●ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL 03-6274-7070 https://www.armani.com/ja-jp