ランゲの神髄に酔いしれる

A.ランゲ&ゾーネ

May 9, 2022 Photo Takehiro Hiramatsu(digni) Text Yasushi Matsuami

あまりにも精緻、あまりにも複雑、あまりにもパーフェクト―ドイツ・ザクセンの時計製造の歴史を受け継ぎ、さらなる高みを求め続けるウォッチブランド、A.ランゲ&ゾーネ。息をのむような数々の傑作コンプリケーションの存在は知っていても、実際手にすることはおろか、目にする機会さえ極めて限られている。

ツァイトヴェルク・デイト
独創的な瞬転数字ディスクによるデジタル時刻表示モデルをベースに、新開発ムーブメントによって瞬転式デイト表示を加えた。4時位置に時表示調整用ボタン、8時位置に日付調整ボタンを装備。「ツァイトヴェルク・デイト」手巻き、ケース径44.2㎜、WGケース×アリゲーターストラップ、11,968,000円。

A.ランゲ&ゾーネらしさとは何か? フラッグシップというべき「ランゲ1」のオフセットされたダイヤルや、アウトサイズデイトを思い浮かべる人も少なくないだろう。確かにそれもランゲを象徴する一つだが、他の追随を許さない完成度や細部へのこだわり、また高い技術力の結晶というべきコンプリケーションの数々もまた、ランゲの真骨頂というべきだろう。

例えば「ツァイトヴェルク」。機械式デジタル時刻表示という、他にない機構と表情を特徴とするモデルである。驚くべきは、9時位置の時表示ディスクも、3時位置の分表示ディスクも、全てが“瞬転式”ということだ。60秒、10分、60分が経過するまさにその瞬間、それぞれのディスクが正確無比に切り替わる。これを実現するためには、輪列構成や歯車の精度をブラッシュアップし、動力供給システムやバランスなどを徹底的に調整しなくてはならない。

ここに紹介している「ツァイトヴェルク・デイト」は、初代モデルから10周年を祝し、文字盤外周にリング状のデイト表示を加え、2019年に発表された。深夜0時を迎える瞬間、日付が1日送られるのは言うまでもない。最大4枚のディスクを同時かつ瞬時に動かすという困難に挑戦する姿勢もランゲらしい。

「ランゲ31」「トリプルスプリット」
(右)トルクを一定に保つため、ツインバレルと脱進機との中間に10秒ごとに巻き上げられる特殊なゼンマイシステムを設置。ルモントワールと呼ばれるこの動力制御機構の動きを、サファイアクリスタルバックから鑑賞できる。「ランゲ31」手巻き、ケース径45.9㎜、PGケース×アリゲーターストラップ、18,304,000円。(左)12時位置の12時間積算カウンター、4時位置の30分積算カウンター、センターの60秒カウンターの全てがラップタイム表示する世界で唯一のスプリットセコンド・クロノグラフ。8時位置にスモールセコンド、6時位置にはパワーリザーブ表示を搭載。「トリプルスプリット」手巻き、ケース径43.2㎜、PGケース×アリゲーターストラップ、世界限定100本、20,240,000円。

「ランゲ31」は、31 日間もの究極的な超ロングパワーリザーブを実現したモデル。通常の約10倍の長さに相当する1850㎜もの自社製動力ゼンマイを収めた二つの大型香箱を搭載。大量のエネルギーを一定量ずつムーブメントに供給するための特殊な動力制御メカニズムも開発された。

シンプルでありながら、ロングパワーリザーブにふさわしい堂々たる風格を備え、ランゲを象徴するアウトサイズデイトも装備。付属の専用キーで、往年の懐中時計さながらゼンマイを巻き上げる行為も、時計と対話を楽しませてくれるだろう。

時、分、秒の全積算カウンターにおいて、ラップタイム表示を可能にした「トリプルスプリット」も、ランゲしか実現していない複雑機構である。

通常のスプリットセコンド・クロノグラフの場合、秒積算針のみがラップタイム計測できるようになっていることが多いが、これでさえ製作は極めて困難とされる。それを、60分計、12時間計の三つにまで拡張した。究極を志向するスタンス、そしてそれを実現させてしまう技術力には脱帽の思いを禁じ得ない。今年の新作としてピンクゴールドケースとブルー文字盤仕様としたエレガントな「トリプルスプリット」が発表され、改めてその魅力を際立たせている。

●A.ランゲ&ゾーネ
TEL0120-23-1845

※『Nile’s NILE』2021年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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