パテック フィリップの威信を示す一本

曜日、日付、月が大型表示窓に一列に並ぶ極めてユニークなインライン表示の永久カレンダー搭載モデル「5236P」が発表された。
パテック フィリップは、1925年に永久カレンダー搭載腕時計を誕生させて以来、指針表示や窓表示などのさまざまなデザインを生み出してきたが、インライン表示の永久カレンダー搭載腕時計は、これが初である。懐中時計としては72年にアメリカ市場向けに、インライン表示の永久カレンダー搭載モデルが製作されたことがあり、それがこの「5236P」の着想源となった。
12時位置の細長い大型表示窓には、左から曜日、日付、月が並び、端正で見やすい。が、これを実現するためには、さまざまな技術的課題をクリアする必要があった。単一の日付表示ディスクに31日分の数字を記載したのでは十分な視認性を確保できないため、10の位と1の位を別々のディスクとし、さらに曜日、月の計4枚のディスクを同一平面上に配置するためダブル・ボールベアリング機構を開発。
また日付表示の2枚のディスクを完璧に同期させるためのダブル・ジャンプ防止機構や、31日から翌月1日への移行を確実にする日付プログラム車など、三つの特許取得機構が開発された。このインライン表示だけで、従来の永久カレンダー表示より118個も多くの部品が追加されている。
複雑性を極めつつ、信頼性を確保し、外装も押しも押されもしない堂々たる風格。パテック フィリップの威信を示す一本である。

パテック フィリップを象徴する一つ「カラトラバ」
微細なピラミッド型のモチーフが連なるクルー・ド・パリ装飾をベゼルに施した、「カラトラバ」は、パテック フィリップを象徴する一つといっていい。

1932年に「カラトラバ96」が誕生した2年後の34年には、このベゼルを備えた「カラトラバ96D」が登場。そのDNAは、85年に登場し20年以上にわたって製作された伝説的な「3919」、そのリニューアル版というべき2006年発表の「5119」などへと、脈々と受け継がれていった。
実はクルー・ド・パリ装飾のモデルは一部の限定モデルを除いて19年以降、製作されていなかった。今回「カラトラバ6119」となってカムバックしたことを歓迎したい。わずかに大きくなった直径39㎜のRGケースにシルバー文字盤を配した「6119R」と、WGケースにチャコールグレー文字盤を備えた「6119G」の2バージョンが用意された。
ともにオビュ(弾丸)型の植字インデックスとドフィーヌ型時分針、またカーブしたラグを採用し、往年の「カラトラバ96D」、それに先立つ「96」を彷彿させる。

搭載するのは、新開発の薄型手巻きキャリバー30-255 PSである。安定した強いトルクを生み出すために2個の香箱を備え、65時間のパワーリザーブが実現されている。将来を担う手巻きのベースキャリバーとしても、期待が大きい。
伝統的な美学と先進的なパフォーマンスが統合された新生カラトラバの誕生を祝福したい。
尽きることのない「ノーチラス」の魅力

1976年のデビューから45年を経ても「ノーチラス」の人気は衰えを知らぬどころか、さらなる熱狂を呼んでいる。ウォッチズ&ワンダーズでは2021年が現行スチールモデル「5711/1A-010」の生産最終年になるとのアナウンスに衝撃が走ったが、オリーブグリーン・ソレイユ文字盤の「5711/1A-014」の発表は、それを凌駕するインパクトがあった。
水平エンボス模様に、放射状に光が広がるソレイユ仕上げを施した文字盤は、「ノーチラス」を特徴づけるものだが、オリーブグリーンが採用されたのは初めてのこと。ケースに反射した光と調和するエレガントな色調は、発表と同時に多くの愛好家を魅了してしまった。
また、コンプリケーテッド・ウォッチの一角を占める「ノーチラス・トラベルタイム・クロノグラフ」のニューバージョンも発表された。二つの時針によるデュアル・タイムゾーン表示、フライバック・クロノグラフ、12時位置のポインターデイト、ローカルタイムとホームタイムの昼夜表示などの複雑機構はそのままに、ローズゴールド製ケース&ブレスレット仕様となり、ブルー・ソレイユ文字盤を備た。スポーティーなラグジュアリー感が、一層際立つ仕上がりだ。
このほか「ノーチラス」としては、オリーブグリーン・ソレイユ文字盤のスチール仕様にバゲットカット・ダイヤモンドをセットしたバージョンや、婦人用ハイジュエリーモデルも発表された。「ノーチラス」の魅力は、尽きることがないかのようである。
洗練された魅力にあふれるモデル

1年に1度、3月1日にのみ日付修正すればよい年次カレンダーは、パテック フィリップが1996年に特許を取得して以来、ブランドを代表する機構となり、さまざまなタイプが発表されてきた。が、今回べールを脱いだ「4947/1A」は、ステンレススチール製のラウンド型カラトラバ・タイプという、かつてない仕様のモデルとなっている。直径38㎜のケースに、全面ポリッシュ仕上げされたブレスレットをセットし、ブルーの文字盤には、異なる太さの縦糸と横糸で織られた紬風の絹布、山東絹をモチーフとする装飾が施された。性別を問わず使いたい洗練された魅力にあふれたモデルである。
一方で、女性的なエレガンスを象徴するカラトラバ「4997/200」は、2010年に登場し、20年に生産終了となった「カラトラバ4897」の後継というべきモデルである。ギョーシェ装飾のラック塗装文字盤は踏襲しつつ、ケース径を2㎜大きい35㎜とし、旧モデルの手巻きキャリバーに替えて、超薄型のマイクロローター式自動巻きキャリバー240が搭載された。
文字盤は、微細な放射状の波形模様を施した上から、透明なミッドナイトブルーのラック塗装を何層にも施して完成する。クラフツマンシップの粋を凝らした、デリケートで奥行きのある表情は見飽きることがない。
ここまで紹介してきた全ての新作が、パテック フィリップのクリエーションが今、充実の時を迎えていることを伝えている。
●パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
TEL03-3255-8109
※『Nile’s NILE』2021年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています