人生に豊かさをもたらす品々には、ある共通の特質を見いだすことができる。創り手が最高を目指し、技術と情熱を惜しみなく注ぎ込んでいること。美術・工芸品、車、タイムピース、ワイン、料理……、投資に値する価値がそこに息づいている。
オーディオも、そんな一つに数えられるものだ。コンサートホールやライブ会場で体感する以上に臨場感あふれる音を、自宅に居ながらにして、何度でもよみがえらせる贅沢。その感動を追い求める世界の富裕層から圧倒的な支持を集めている日本のオーディオブランドがある。それがオーディオ・ノートである。

ミドルクラスパワーアンプ「Kanon」(中央)8,250,000円
音楽を聴きながら、そこに歌い手や演奏者が見えてくるかのような、究極の音が心を揺さぶる。
同社は、世界中のオーディオ愛好家から、銀の匠を意味する「シルバースミス」の異名でリスペクトを浴びた、故近藤公康氏によって1976年に設立された。
CBSソニーの1期生として録音機材の開発に携わった後、自身の理想とする音響機器を追求するべく独立。全ての金属の中で最も導電率が高く、心地よい響きを持っている銀に着目し、従来の銅に替わり世界で初めて純銀を採用したトランス、ケーブル、コンデンサーなどを相次いで開発、画期的な音質向上を実現させる。「シルバースミス」の呼称は、ここに由来する。
銀の採用のみならず、オーディオ・ノートは、音質に徹底的にこだわったハイレベルのオーディオ製品を世に送り出していく。
89年にイギリスの権威あるオーディオ雑誌に紹介されたことを契機に、国内よりもむしろ海外での評価が先行。97年からは、創業者の姓を冠した「KONDO」のブランド名で海外展開を強化する一方、2009年から国内での販売も再開、日本の愛好家の歓迎を受ける。
残念ながら近藤氏は06年に急逝するも、後継者たちが、その哲学を守り、進化を続けている。そこに一切の妥協はない。
「小さな部品まで手作業で仕上げ、独自のオーディオ製品を創り上げているメーカーは、世界的にも他に例がないのではないでしょうか」
オーディオ・ノートの現・代表取締役の芦澤雅基氏は、穏やかな口調の中にそうプライドをにじませる。サウンドディレクターの廣川嘉行氏も、こう付け加える。
「アンプの電子部品一つの違いや、ケーブルの太さの違いでも音が変わってきます。小さな1歩でも、10歩重ねると1ランク上がる。仮説を立てて、試作、検証を繰り返し、やり過ぎぐらいのところまで追求してから、1歩下がってさまざまな角度からバランスを図り、慎重に妥協なく、音づくりを詰めていきます」
気の遠くなるような細かい作業の積み重ねの上に、オーディオ・ノートの音が完成していくのである。

音楽の感動を100%伝える至高のオーディオ
そんな技術と思いの詰まったオーディオ・ノートの製品の中でも、フラッグシップたるべく13年に開発されたパワーアンプが「Kagura」である。左右のチャンネルを独立させたモノラルパワーアンプで、同社を象徴する純銀製配線材の使用はもちろん、専用パーツを新開発し回路にもこだわった。

同社唯一にして究極のターンテーブル「GINGA」も、そのスタンスを雄弁に物語る。レコード盤を乗せるプラッターやベース部に、異素材の組み合わせを導入することで、無駄な残響を抑えたクリアで生き生きとした音を実現。御影石に銅を挟み込んだ台座部分も含め、総重量は120㎏に及ぶ。
さらにユニークな糸ドライブ方式、電源部からモーターユニット、軸受けに至るまで、通常ではあり得ないこだわりや、世界初の技術が詰めこまれている。

この「Kagura」と「GINGA」の音を、神奈川県川崎市にある同社のリスニングルームで体験する機会を得た。まず、重厚感あふれる外観に目を奪われる。卓越したポテンシャルがそのまま形になったような機能美とでも言ったらいいだろうか。洗練されていながら、ただならぬオーラを感じさせる。
「GINGA」から生み出された音が、プリアンプの「G-1000」を経て、フラッグシップパワーアンプ「Kagura」から届けられた瞬間、あたかも歌い手や演奏者が、その場にいるかのような錯覚にとらわれる。通常とは別次元のダイレクトさ、体験したことのないナチュラルで躍動感に満ちた音。
さまざまな音が精緻に積み上げられたレコード作品では、立体的な音楽世界がまるで絵画を見るかのように聴こえてくる。ライブレコーディング作品では、歌い手の感情やささやき、演奏者たちのグルーブ感、そして会場の気配や熱気までもが伝わってくる。
「音楽の美しさが100%伝わるか、80%かで、感動の度合いが違います。だから徹底的にポテンシャルを高めました。コンサートホールやライブ会場での感動とはまた違った、高品質な再生音楽を楽しむのがオーディオの醍醐味。製品を通じて感動を届け、人生を豊かにして欲しいという思いです」
という廣川氏。芦澤氏もこう語る。
「オーディオルームで、一人音楽の世界を楽しむのもいいんですが、私どもの製品をお求めになる方には、リビングで音楽を流しながらホームパーティーを楽しまれるケースも多い。ゆっくり音楽を聴きながらレシピを考えるという世界的なシェフや、気を張っている時間が長い分、いい音楽でリラックスする時間を大切にしているという経営者や弁護士の方もいらっしゃいます」

究極の音を日々の生活の中に自然と取り入れることほど贅沢なことはない。そこには感動や癒やし、クリエイティブなインスピレーションがある。リビングに置かれた重厚かつ洗練された外観のオーディオ・ノートのアンプに、真空管のほのかに温かみのある灯がともり、ターンテーブルのレコードに針を落とす―、そこから始まる特別な時間を心ゆくまで味わいたい。
●オーディオ・ノート TEL044-520-3150
※『Nile’s NILE』2020年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています