
フランチャコルタを味わう至福のひとときは、グラスに注ぐ瞬間に始まる。きめ細かな無数の泡が束になって湧き上がり、軽やかに舞う。やがて黄金色の液体が静けさに覆われるころ、一本の泡がかすかに揺らぎながらスーッと立ち上る。思わず見惚れる美しさに時間が経つのも忘れるほどだ。すばらしいスパークリングワインが描く一筋の泡は、かなりの時間消えずに呼吸し続けるという。愛好家を魅了するこのフランチャコルタとは、どんなワインなのか。
深い森に抱かれた葡萄畑の記憶をたどると、ルーツは中世、16世紀ごろにさかのぼる。千年以上前の氷河に削られて形成された丘陵地で、葡萄の栽培が始まったのだ。豊富なミネラルを含む土壌、良好な気象条件など、ワイン醸造にとってこの上ないテロワールに恵まれた土地だけに、当時からすでに地元の消費量を上回るワインが生産されていたようだ。

しかしそこでワイン造りの歩を止めていたら今日の成功はなかっただろう。約3世紀の時を経た1960年代、この地に大きな転機が訪れた。醸造家のフランコ・ジリアーニが11の生産者とともに、瓶内二次発酵によるスパークリングワイン造りに挑戦。酵母の澱を入れたまま最短でも18カ月以上の長期にわたって瓶熟成を行うこの製法で、複雑にして官能的な特有の香りを醸す極めて高品質のワインを完成させたのである。
フランチャコルタはその後、洗練されたワインブランドとして急成長。95年にはボトルのラベルから「スプマンテ(発泡性ワイン)の文字が消えた。フランスのシャンパーヌ同様、原産地呼称だけで生産地の領域、生産方式、ワイン名が表されるまでに特異な地位を獲得したのである。

現在118を数えるワイナリーでは、代々受け継がれてきた伝統的な製法、つまり栽培からボトリングまで手作業で行うことで極上の味わいを守り続けている。特徴的なのは、この地の葡萄は豊富な糖分を含むため、ドサージュを最低限に抑えられること。例えばナチュールは、ドサージュ・ゼロ。ふくよかな果実感としっかりした酸味がすばらしい。とくにこれからの暑い季節にマッチする超辛口だ。また糖分が1ℓ当たり12g以下の辛口ブリュットのタイプで造られるサテンも夏向き。5気圧以下と低めの内圧による滑らかな口当たりが魅力だ。クリーミーな泡と完熟果実の香り、心地良い酸味が涼やかなハーモニーを奏でる。このほか作柄の品質がとくに良い収獲年度の葡萄だけで造られるミッレジマートや、その中でも質が高く5年以上熟成させたリゼルヴァ、華やかな色合いが美しいロゼなど、糖分控えめの健康的で個性的な面々がそろう。
これらのフランチャコルタをバイザグラスで楽しめるポイントがある。阪急メンズ東京3階のバーが その一つ。オープン2周年を迎え、軽食の記念セットを供するなど、キャンペーンを展開している。この 機会に一度、立ち寄ってはいかがだろう。フランチャコルタの世界に気持ち良く酔えること請け合いだ。
●フランチャコルタ協会日本事務局
※『Nile’s NILE』2021年8月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています