
ぽっかりと予定が空いた初冬の平日は、神様からの贈り物。無駄にしては罰が当たる。ひとりきりの貴重な時間を満喫するなら、ドライブがいい。そんな日に最高の相棒となるのは、ツーシーターのスポーツカー、アルピーヌA110 S。普段、その鋭い爪を隠して行儀よく過ごしている愛車とともに、濃密な時間を過ごしに行こう。
横浜市内の自宅を出て、目指すは房総半島。海底を一直線に千葉まで貫く東京湾アクアラインは、コーナーもなくほぼ一定の回転数で走行する。ミッドシップエンジンが放つ低い唸うなり声のような呼吸をシート越しに感じながら、長いトンネルを出る瞬間の、光の中に飛び立つような感覚が、心地いいプロローグとなる。
アクアラインからそのまま首都圏中央連絡自動車道へと乗り継ぐ。この道路は、左右の視界が開けた高架式で、トンネルとは対照的に開放感がある。空を飛び続けているようで、心も解き放たれてゆく。

アルピーヌA110 S
ボディー:全長4205╳全幅1800╳全高1250㎜
エンジン:1.798ℓ 直列4気筒DOHC16バルブターボ
最高出力:300PS/6300rpm
最大トルク:340Nm/2400rpm
駆動方式:MR
トランスミッション:7速AT
価格:9,390,000円
木更津東インターで高速を出て、 国道410号を南下し、久留里(くるり)駅方面へと向かう。久留里はかつて城下町であったことや、もともと名水が湧く土地であったため、昔から酒蔵が多い。小さな造り酒屋の「吉崎酒造」もそのひとつ。江戸時代から続く酒蔵で、事前に予約しておけば竹の筒に酒を詰めた竹酒を買うこともできる。こうした楽しみがあるのも、房総のいいところ。土産に銘酒を持ち帰って、ドライブの余韻をじっくりと味わうとしよう。
もちろん、運転中では酒の試飲はかなわないが、こちらの「吉崎酒造」では酒以外にも名水百選に選ばれた久留里の水を使ったサイダーも作っているので、運転の途中でも安心してのどを潤すことができる。
また、久留里駅隣の観光交流センターの前には自噴井戸があり、地下水が湧き出ている。そのひんやりとした清水で顔を洗えば、気分も引き締まって運転に集中できそうだ。
国道410号はこの先徐々に山道になり、房総の実力を見せ始める。左に鋭角にハンドルを切って国道465号に入ると、すぐに四よ 町まち作さく第一隧道(ずいどう)を通り抜ける。
ここは日本で2番目に古いと言われる素掘りのトンネル。これも房総を走る楽しみで、半島にはかつて木材や米などを運ぶために人力で掘られたトンネルが点在する。それらは独特な趣があって、隧道マニアが訪れる人気のスポットになっている。
結界のようなトンネルを過ぎると、道はさらにアップダウンが増し、ヘアピンカーブが連続する本格的なワインディングロードへと変貌する。ラリーカーの系譜を引くアルピーヌは、こうした曲がりくねった道でこそ本領を発揮するのだ。

市街地ではタイトに感じられる一体成形のバケットシートが、腰と背中を包み込むように支え、横Gのかかる急カーブが続いても、体が振られず疲れにくい。7速のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、自動制御で最適なギアを瞬時に選んで変速するので、ブレーキングと加速を繰り返す山道を、水を得た魚のごとくに俊敏に走る。
状況に応じて行われるDCTならではのスムーズなシフトアップ&ダウンを感じながら、運転はアクセルワークとハンドル操作に集中できる。
また、A110 Sはセミオートマとしてドライバーが任意でギアを変えるマニュアルモードを備えているので、よりアグレッシブに、自分なりに走ることもできる。これも車好きにとってはうれしいポイントだ。
無駄をそぎ落としてコンパクトに徹したボディーは、アルミ素材で成形されている。その軽量さが生み出すハンドリングの良さが、峠道を駆け抜ける喜びを感じさせる。
国道410号から465号へ、複数の路線を経て継ぐ久留里街道の荒ぶる道が、穏やかな里山道へと表情を変えたところで、県道182号へとそれる。小山の間を走るこの道沿いには紅葉する木が多く、もみじロードとして親しまれている。房総では温暖な気候ゆえ、紅葉は11月末から12月初旬がピーク。燃え立つような紅葉に囲まれるルートも、初冬の房総ドライブへの誘いとなる。

もみじロードの程よいカーブを堪能したら、いよいよ本日の仕上げとなる鋸のこぎりやま山登山自動車道へと向かう。全長3㎞に満たず、わずか数分で山頂の駐車場に達する短い有料道路ではあるが、じつは映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』のロケにも使用されたテクニカルなコースとなっている。海を望む急斜面にへばりついたヘアピンカーブでは、スポーツカーとしての純度を高めたA110 Sが、歓喜するのがわかる。
夕方16時には閉鎖されるので、15時半ころまでには入路する必要があるが、秋から冬にかけてはその時間帯こそが秀逸。傾いた陽の光が海を輝かせて絶景となるので、わざわざであっても行く価値がある。

山を下りて、金谷のカーフェリー乗り場に着くころには、ちょうど夕焼けが始まる。この辺りでは、水平線に沈む夕日が眺められるだけでなく、晴れ渡った日には夕焼けでシルエットになった富士山や、蜃気楼のようなみなとみらいのビル群も見渡せて、ドライブのフィナーレにふさわしい。
16時半発の久里浜行きの船に乗れば、暮れゆく空を見ながら40分間の贅沢な休憩。下船後は、横浜横須賀道路、首都高速をゆったりと走り、クールダウンしながら家路をたどる。
1.8リットルと小型ながら直噴ターボチャージャーを搭載した直列4気筒DOHC 16バルブのエンジンは、高速クルージングにも余裕があるので、帰路の高速道路での巡航速度の走行さえも心地いい。
初冬の平日には渋滞の少ない房総ではあるが、運悪く帰路の高速道路が渋滞しても大丈夫。金谷も久里浜も、港の近くに日帰り温泉があるので、海を見渡す湯船に浸かって時間調整すれば、渋滞も楽しく回避できるだろう。だから、房総ドライブでは人も車も満足できる。
愛車を駆る贅沢なひとり時間が、日々の疲れをリフレッシュさせる。さて、次はどこへ行こう。
スポーツカーのパフォーマンスを突き詰めた過激な新モデル
F1を始めとするモータースポーツで培ったノウハウを生かしてエアロダイナミクスを突き詰めたA110 Rは、軽さと強度に優れたカーボン(CFRP)を用いて車体をさらに軽量化。専用シャシーにより走りの性能を劇的に向上させた、ラインアップ中で最もラディカル(過激)なモデルとなった。サーキットでの刺激的な走りが味わえるうえ、一般道でもドライビングプレジャーを得られる、まさに公道を走れるレーシングカーだ。

エンジン:1.8ℓ 4気筒 直噴ターボ/最高出力:300PS/最大トルク:340Nm/2400-6000rpm/最高速度:285km/h/価格:11月末に発表
●アルピーヌ コール TEL 0800-1238-110