
1950年、東京都生まれ。75年早稲田大学卒業後、三菱商事入社。40年以上グローバルビジネスに携わり、訪問した国は約80カ国。サウジアラビアのリヤド駐在、メキシコ国営塩田事業経営、代表取締役副社長を退任後、2018年4月神田外語大学長に就任。22年より国連UNHCR協会理事長を兼ねる。元横浜市教育委員。
AI の技術が驚異的なスピードで進化している。人間の知的活動のかなりの部分が、早晩、AI に置き換えられそうだ。そのこと自体は喜ぶべきことだ。あらゆる分野で「作業の効率化」が進み、人間が自由に使える時間が増えるからだ。しかし大きな問題が残る。それは、人間が主体性を放棄しはしないか、ということだ。神田外語大学・宮内孝久学長はそうしたリスクを踏まえて、「AI 時代だからこそ、教育は学生たちが自分の頭で物事を考える環境を提供するべきだ」と考える。
千葉・幕張に開学して35年、神田外語大学はグローバル社会をリードする人材を育成・輩出してきた。語学力と真の教養を身につけることを眼目とするその教育とは。それを読み解くキーワードとして、宮内孝久学長は「SDGs」を掲げる。
「本学は『言葉は世界をつなぐ平和の礎』を建学の理念としています。SDGsの精神そのものですよね。一方でSDGsの掲げる目標は、学生に自分の頭で考える力を身につけさせるヒントとして、非常に使い勝手がいい。なぜなら世界が抱えるどの課題を解決しようとしても必ず壁にぶつかり悩みます。イエスorノーの二元論では片づけられず、トレードオフの問題が生じる。例えば海の豊かさを守ろうと考え、陸に汚水をためても限界があるし、浄水設備で処理しても環境負荷はゼロにならない。次々と生じる新たな課題に対して、一つひとつシミュレーションを重ねながら、ベストな方法を探る。それが思考の訓練になるのです」
SDGsの達成には世界レベルでの協業が必要だ。人種も住む地域も環境も価値観も考え方も、すべてが異なる多様な人たちと言葉でコミュニケートし、互いの立場を理解しようと努める中で、共生できる道を共創していくことが求められる。宮内学長はそういう難題に立ち向かうマインドと思考を育てたいという。
その思いを象徴するのが、昨年創設された「グローバル・リベラルアーツ学部」だ。ここは「世界の平和のために行動できる人を育てる学部」。世界の課題を検証するために必要な幅広い教養を身につけ、その中で得た自分の考えを発信し、アクションにつなげる能力を養うことを目的としている。
特徴的なのは、入学してすぐ、全学生に2週間の海外スタディ・ツアーを体験させること。留学先は四択で、例えばインドでは宗教対立、貧富の差を考え、マレーシア・ボルネオでは開発と環境のバランスを悩み、リトアニアではナチスドイツとソ連に翻弄された歴史に接し、エルサレムではユダヤ教・キリスト教・イスラム教の摩擦と折り合いを学び、自らの無知を知る。学生たちの好奇心に火が付き、目つきが変わるのだ。さらに3年次には、ニューヨークに約4カ月間留学し、世界で活躍するための資質を磨く。「真の国際人」が育つことが期待されるカリキュラムだ。
神田外語グループは大学に加えて、早期英語教育のための「神田外語キッズクラブ」や、社会人の即戦力となる語学と専門スキルが身につく「神田外語学院」、企業や官公庁向けに英語研修を提供する「神田外語キャリアカレッジ」などを擁し、あらゆる年代に向けて語学を中心とする教育を実施している。また特筆すべきは「ブリティッシュヒルズ」という、中世英国の街並みを福島県に再現した疑似体験型宿泊研修施設だ。「本学を始め全国の中高生の英語研修を行っていて、海外留学したような気分で、実地の英語が学べると好評」だそうだ。
就任から4年、宮内学長の整えた環境から、どんな人材が巣立っていくのか。今後がますます楽しみだ。
●神田外語グループ
TEL 03-3258-5837(グループコミュニケーション部)