ドラマチック・マカオ

May 2, 2022 Photo ©MGTO and Others Text koko shinoda Many thanks to Grand Lisboa

半世紀にわたるルーツ、グランド・リスボア・マカオ

マカオ半島の先端にあるポウサダ(ポルトガル風のホテル)のテラスを覆う菩提樹の下で、ポルトガル・ワインを飲みながら、南シナ海に沈む夕日を眺めた。金色にまったりと広がる海の彼方に島影が望めた。マカオが半島と二つの島から成っていた頃のことだ。
が、21世紀初頭に半島の南側が埋め立てられ、島を結ぶ3本の橋がかかり、二つの島は間を埋め立てたコタイが生まれた。半島をふさぐ大きさとなった島は、目を奪う大型IRが集まる不夜城となった。

巨大なカジノはもちろん、ホテル、レストラン、モール、シアターなどを備えたメガ・リゾートはそれぞれユニークなデザインと趣向を凝らし、大人も子供も楽しめるディズニーランドのような世界を築きあげた。そして、現在も開発が目白押しで続いている。

IRはコタイだけでなく、半島側にも幾つか開業し、近未来的なスカイラインを描いている。その基盤に地元の中国風の街並みがあり、ポルトガルが忘れていった佇まいが随所に残されている。そうした対象がなすゆえだろうか、街角で見かけるクラシックなモチーフのアズレージョ(ポルトガルのタイル画)は、ことのほか鮮やかに映る。

  • 起伏の激しい石畳の坂道、瀟洒な鉄細工を施した家々のヴェランダ 起伏の激しい石畳の坂道、瀟洒な鉄細工を施した家々のヴェランダ
  • 噴水のある小さな広場やパステル・カラーの教会 噴水のある小さな広場やパステル・カラーの教会
  • ユネスコ世界遺産になっている街並み ユネスコ世界遺産になっている街並み
  • 起伏の激しい石畳の坂道、瀟洒な鉄細工を施した家々のヴェランダ
  • 噴水のある小さな広場やパステル・カラーの教会
  • ユネスコ世界遺産になっている街並み

起伏の激しい石畳の坂道、瀟洒な鉄細工を施した家々のヴェランダ、プラタナス並木に寄りそうランプ街灯、随所に点在する噴水のある小さな広場やパステル・カラーの教会……半島のそんな街並みは、リスボンの旧市街地を彷彿とさせる。7つの丘があるという地形もどこか似ている。


そんな大航海時代を思わせる町並みがユネスコ世界遺産になっているが、そこに現代の日常生活が営まれているのが新鮮なドラマを見せてくれる。南欧コロニアル風の優雅な建物の中に、中国茶や漢方薬の老舗がしっくりと収まっている。狭い通りに線香と熟した果実の匂いが混じって漂う。寺の裏手にある教会から、賛美歌が流れてくる。 

茶廊(中国風のカフェ)の隣の瀟洒なカフェに入り、名物のエッグ・タルトを食べる。ポルトガルにも似た菓子があるが、マカオの方がエッグ・カスタードがふんわりとして甘さを控えた分風味がある。マカオは、大航海時代の寄港地から伝わるスパイスや調理を取り入れた独特の味わいの料理が多い。

ユネスコの食文化創造都市に登録されたのも、そういった土壌があるからだろう。そこにIRのホテルやレストランが開業し、世界のトップ・シェフが集まるようになったのだ。

  • グラン・リスボアのフレンチ料理 グラン・リスボアのフレンチ料理
  • ミシュラン星レストラン ミシュラン星レストラン
  • ミシュラン星レストラン ミシュラン星レストラン
  • ミュシュラン店から来たシェフのジョバンニ・ガレオタさん ミュシュラン店から来たシェフのジョバンニ・ガレオタさん
  • グラン・リスボアのフレンチ料理
  • ミシュラン星レストラン
  • ミシュラン星レストラン
  • ミュシュラン店から来たシェフのジョバンニ・ガレオタさん

その中でも、一つのホテルに3軒のミシュラン星レストランを誇るのがグラン・リスボアだ。3つ星のフレンチ・レストラン「ロブション・オ・ドーム」。フレンチの最高峰とされるに相応しく、46階建てのホテルの最上階のドームにあり、17000ラベルを有するマカオ最大のワイン・セラーを備えている。

また、金魚をモチーフにしたモダン中国料理の「ザ・エイト」も3つ星ミシュラン、ステーキ・レストラン「ザ・キッチン」は一つ星ミシュランだ。本場飲茶はもちろん、地元にも人気の「ヌードル&コンジー」は、ミシュラン・ビブグルマンに。24時間無休なのはIRならでは。

イタリアンの「ドン・アルフォンソ1890」は、カジュアルな雰囲気の南イタリア料理だ。のミュシュラン店から来たシェフのジョバンニ・ガレオタさんは、「素材は全てイタリアからのオーガニック産物。本物のイタリア料理の新鮮な味わいを肩肘張らずに堪能してほしい」と語る。マカオにあって遥かイタリアから、最高品質の旬の食材が運ばれてくる。

東西の食を味わいつくした翌日は、心身を安めに37階のジムとスパへ。心地よい海風が吹く、快適に水温調整されたアウト・ドア・プールでマカオの町を望みながら寛ぐ。同じ階には、クラリンスと提供しているスパがあり、タイの名セラピストをそろえている。

グランド・リスボア

グランド・リスボアは南湾湖に面した半島の中心部、バスなど交通の集まる所にある。アズレージョにポルトガルで語で記された通りを人波に乗って歩いてゆくと、自然に行き着く。というよりも、ハスの花をモチーフにした金色に輝く260mの高層建築はどこからも一目瞭然だ。

創業者、スタンレー・ホー氏の銅像

低層部にカジノがあり、広大なロビーには国宝級の芸術品や財宝が飾られている。全ては創業者、スタンレー・ホー氏のコレクションだ(彼の銅像もホテルの至るところに)。今年98歳となるホー氏は隣接するリスボア・ホテルを半世紀前に開業した、マカオのIRの先駆者といえる。  

香港のユダヤ系名門に生まれ、商才を生かして戦前は日本の組織とも組み、やがてマカオのカジノ事業を立ち上げた。香港とマカオを結ぶフェリーやヘリを運行したことが、成功の鍵となった(現在も一族の経営だ)。

さまざまな逸話を持つ人物で、複数の妻(当時中国では合法だった)のもとで多くの親族がおり、ブルース・リーも遠縁であったとか。21世紀に入りカジノもフェリーも独占事業ではなくなったが、ホー氏は昨年97歳まで、現役として商都マカオに君臨していた。

陽光に聳えるグラン・リスボアがマカオの町に落とす光と影は、ホー氏自身のドラマそのものともいえる。

※『Nile’s NILE』2019年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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