輝けるフランスの魂

April 26, 2022 Photo Hiromitsu Yasui(Weekend.) Text Yoshio Fujiwara

かつて雪に覆われたモンテカルロの山道を、世界の名だたるメイクスのモデルより速く駆け抜けたスポーツカーがあった。その名はアルピーヌA110。そのDNAを受け継ぎ現代に蘇ったアルピーヌA110もまた、新たな伝説を生み出す素質を十分に持った魅力的な一台に仕上がっている。

もしアルピーヌがなかったら、フランスの魅力は半減していたかもしれない。大げさに聞こえるかもしれないが、それはある意味で事実だ。

1894年にパリ〜ルーアンの間で史上初の自動車レースが行われ、1900年にパリ〜リヨン間で初の国際レースが行われるなど、フランスはモータースポーツ発祥の地として知られている。そしてブガッティ、ドラージュ、ドライエといったキラ星のようなメーカーが覇を競うスポーツカーの国でもあった。

しかし第2次世界大戦でフランスは荒廃し、スポーツカーの灯は消えかかろうとしていた……。

その窮地を救ったのが、ノルマンディーの港町ディエップでルノーのディーラーを営んでいたジャン・レデレという男だった。

戦後、徐々にラリーが再開されると、レデレは発売されたばかりの大衆車、ルノー4CVを駆って挑戦を開始した。そこで4CVの潜在能力を確信したレデレは、それをベースにしたスポーツカーの製造を決意。こうして誕生したのがアルピーヌだ。

ちなみにその名は、レデレがアルプス横断ラリーを走っている時に「アルプスにちなんだ名前をつけたい」とひらめいたものだったという。

1956年にA106ミッレミリアを発表して以降、アルピーヌは常にルノーをベースに開発され、進化を続けてきた。その中でエポックメイキングなモデルとなったのが、1963年にデビューしたA110である。

アルピーヌA110
2017年のジュネーブ・ショーで発表されたアルピーヌA110。軽量高剛性のアルミシャシーの中央に1.8リッター直4DOHCターボを搭載したミッドシップ・レイアウトを採用。ライトウェイトスポーツの新星として高い評価を得ている。

ベースとなったルノー8の素性の良さ、“魔術師”と呼ばれた名チューナー、アメデ・ゴルディーニによるエンジン、そして軽量で流麗なボディーをもつA110は、モンテカルロ・ラリーをはじめとする世界中のラリーやロードレースで大活躍し、WRC(世界ラリー選手権)の初代チャンピオンにも輝いた。

  • ルーフがカーボンとなる ルーフがカーボンとなる
    ルーフがカーボンとなるのはA110Sの特徴。リアに96リッター、フロントに100リッターの荷室をもつ。
    Photo TONY TANIUCHI
  • ヘッドライト ヘッドライト
    フェアリングのついたヘッドライトと、その間に収まるフォグランプ。先代の特徴をうまくモダナイズしたデザインは見事。
    Photo TONY TANIUCHI
  • 右フロントフェンダー部 右フロントフェンダー部
    右フロントフェンダー部にレイアウトされたフューエルリッドには、「A」マークがあしらわれている。
    Photo TONY TANIUCHI
  • コックピット コックピット
    スポーツカーらしいタイトなコックピット。ステアリング脇に7速DCTのパドルシフトがつく。
    Photo TONY TANIUCHI
  • ルーフがカーボンとなる
  • ヘッドライト
  • 右フロントフェンダー部
  • コックピット

その影響力はモータースポーツの世界にとどまらず、スクリーンの中でもジャンポール・ベルモンドらの愛車として登場。日本でもA110が『ルパン三世』の峰不二子、A310が『新世紀エヴァンゲリオン』の葛城ミサトの愛車として登場するなど、アルピーヌはフランスを代表するスポーツカーとなった。

さらにアルピーヌはプロトタイプ・レーシングカーを仕立てて1960年代からル・マン24時間レースにも参戦。ルノーの一部門となった1973年からはさらにその活動を活性化させ、1978年にはA442で悲願の総合優勝を達成。名実ともにフランスの“プライド”となったのである。

その後1995年にA610ターボの生産が終了すると、アルピーヌの名はいったん表舞台から姿を消した。にもかかわらず、事あるごとに「アルピーヌ復活」の噂が流れたのは、それだけ人々の心に残り、期待を寄せられていた証拠といえるだろう。

2017年のジュネーブ・ショーでアルピーヌは高らかに復活を宣言した。それはまた、フランス発信のスポーツカー文化の復活を告げる狼煙でもあった。

路面をしっかりとグリップする足回り
しなやかでありながら、路面をしっかりとグリップする足回りは、292PSにパワーアップされたエンジンと見事な調和をみせる。軽やかでコントローラブルなハンドリングは、まさに“人馬一体”という表現がふさわしい。

アルピーヌが満を持して送り出した2シーター・ミッドシップ・スポーツカーは、再びA110を名乗ることとなった。

それは時代が変わってもポルシェ911やロールス・ロイス・ファントムの名が変わらないのに似て、アルピーヌの普遍的な価値を示している。

丸みを帯びた、どこか可愛らしくもある流麗なボディーこそイメージを踏襲しているものの、新しいA110の中身は半世紀前のA110とは別物となっている。

全長4205㎜、全幅1800㎜、全高1250㎜のコンパクトな車体はアルミを多用したもので、その重量はわずか1120㎏。ドライバーの背後に積まれたエンジンは252PSを発生する1・8ℓの直列4気筒DOHCターボで、ギアボックスは2ペダルの7速DCTのみの設定となっている。

2020年からラインアップに加わったA110Sは、エンジンを292PSにパワーアップ。それに伴いスプリングレートを50%高めてダンパーやスタビライザーなど足回りを強化。さらにワイドタイヤやカーボン製のルーフなどを装備し、よりスポーティーなチューニングを施したエボリューション・モデルだ。

A110S ビトン リミテ
日本限定24台で販売されるA110S ビトン リミテ。世界で初めてエクステリアにツートンカラーを採用したエクスクルーシブなA110だ。
ブラン イリゼ M /ノワール プロフォン M(左)、9,160,000円。
ブルー アルピーヌ M/ノワール プロフォン M(中)、9,160,000円。
ブルー アビス M/グリ トネールM(右)、9,060,000円。      

そのA110Sにツートンのボディカラー、ブラックのGT RACEホイール、ブルーステッチ・インテリア、カーナビゲーションなどの専用装備で仕立て上げた“A110S ビトンリミテ”が、日本限定24台で発売されることとなった。

まさに“爽快”という言葉がしっくりくるスポーティーでファンなドライブフィールで、すっかり世界中のスポーツカー・ファナティックを虜にしてしまった感のあるA110。そのトップモデルのA110Sに設定された、スポーティーとエクスクルーシブを両立させたリミテッド・モデルは、その価値をさらに高めてくれる、未来のヘリテイジになることは間違いなさそうだ。

そうしたアルピーヌの存在価値を一層高めているのが、2021年からスタートしたアルピーヌF1チームの活動だ。ドライバーは、2005年にルノーF1でワールドチャンピオンに輝き、今シーズンから復帰を果たしたレジェンド、フェルディナンド・アロンソと、弱冠24歳のエステバン・オコンとのコンビ。

ニューマシンのA521はシーズン序盤から安定して入賞を続け、そのポテンシャルの高さを示していたが、第11戦ハンガリーGPでオコンが自身にとってもチームにとっても初となるドラマチックな優勝を達成。

レデレの灯したフランス・モータースポーツの灯が、今も煌々と輝いていることを示したのである。

BR-X1 A521
3モデルで展開されるBell & RossのアルピーヌF1チーム ・ウォッチコレクション。写真は50本限定のBR-X1 A521。

またアルピーヌF1チームのオフィシャルパートナーであるフランスの高級時計ブランドのBell&Rossから、F1マシンにインスパイアされた3種類のクロノグラフ、アルピーヌF1チーム ・ウォッチコレクションが登場。

ツーカウンタークロノグラフを搭載し、ダイヤル部分にはチームカラーのアルピーヌブルーが差し色として用いられた。

今やアルピーヌは自動車という枠を超えた一種のムーブメントへと広がりをみせている。

●アルピーヌA110S 
ボディー:全長4205×全幅1800×全高1250㎜
エンジン:1.8ℓ 直4DOHCターボ
最高出力:292PS/6420rpm
最大トルク:320Nm/2000rpm
駆動方式:MR
トランスミッション:7速AT
価格:8,640,000円。

●アルピーヌ コール TEL0800-1238-110

※『Nile’s NILE』2021年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

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